沖縄から南西へ約1400q。東京より近い世界都市・香港。4月から就航した直行便で、約2時間半の距離だ。沖縄のほぼ半分の広さの土地に、5倍近くの7百万人が暮らす。観光客は年間で2千8百万人をこえている。
香港はスピード感あふれるダイナミックな都市だ。100万ドルの夜景輝く、世界第2位の超高層ビル群が、ジャングルのように林立する。人口密度が高いため、接客はスピード重視だ。スマイルはなく、飲食店で皿はテーブルに放り投げて配る。
真由美さんは、アメリカでのレストラン経営を夢見て、同じ夢を持つ香港出身で沖縄育ちのご主人と、香港でアパレル事業を軌道にのせた。接待で香港の飲食店を使うたび、沖縄での接客をなつかしく思いだした。
国際通りのすぐ近くで、真由美さんの実家は長年寿司店を経営していた。店を切り盛りする両親のもと、真由美さんは小学生の頃から店を手伝っていた。久茂地小から那覇中、那覇高校へ進学すると、フィギュアスケートに熱中した。国体の強化選手として県外の大会にも遠征し、トロフィーをもらった。
高校を卒業するとすぐに渡米。知人の家に住んで車の免許を取りながら、アメリカでの生活を楽しんだ。しかし、40日でお金が尽きて帰国。東京で仕事をしながらお金を貯め、「やっぱり語学の専門学校へ行ったほうがいいかな…」と沖縄の外語学院に入学した。
そして卒業すると、オーストラリアへワーキングホリディで滞在し、その後アメリカで3年間生活した。

15年前、アメリカへのステップの予定で、ご主人の故郷・香港へと移り住んだ。立ち上げたアパレル事業が軌道にのり、子供も生まれ、いつしか香港で落ち着いていた。
そんな真由美さん夫妻のもとへ、シンガポールで暮らすご主人のお兄さんから、飲食店の掘り出し物件があるという連絡が入った。すぐにシンガポールへ飛ぶと、クラブが立ち並ぶ一等地に飲食店が一軒もなかった。家賃も手頃で店を始めるには絶好の立地だった。長年の夢であった飲食店オープンを決め、香港とシンガポールを往復して、準備を進めた。はじめての飲食店経営で、冷や汗ものの出店だったが、まわりの人たちの支えもあり、店は軌道にのっていった。
次は、香港だ。シンガポールの出店で経験を積んだ真由美さん夫妻は、家賃が高い香港での出店を決めた。しかし、いくつかの関門があった。香港では食事をしながらお酒を飲む習慣がない。お酒は食事のあとにバーで飲むものだった。日本のような居酒屋というスタイルが香港にはなかった。沖縄から輸入した泡盛を、真由美さんみずからウコンや水で割る飲み方を教えるうち、香港の人たちも日本式の居酒屋を楽しむようになってきた。
2号店、3号店と出店を続け、妹の美也子さんや親戚や幼なじみなど、気心の知れたスタッフを沖縄からも呼んだ。店は次々と増えていった。
2001年、彩食酒家「えん」2号店(香港)。
2003年、古酒家えん(香港)。
2004年、料理とお酒「ちゅら」(香港)と「えん」3号店(ジャカルタ)。
2005年には、シンガポールに1店舗と、香港に2店舗。
そして、沖縄から食材を輸入するための貿易会社も設立した。
今年4月に直行便が就航し、沖縄と香港の距離がぐんと近くなった。今や、香港を代表する沖縄居酒屋となった「えん」グループは、香港での沖縄フェスティバルも行っている。夏川りみさんやパーシャクラブを招いてのディナーショーや、しゃかり、カチンバ、ユキヒロなどのミュージシャンのライブ、伝統料理、琉球舞踊など、沖縄の文化も紹介している。
直行便にのせて、新鮮な沖縄の魚を提供することもできるようになった。イラブチャーやミーバイなど極彩色の魚が、香港のテーブルをまわる。緑やオレンジや黄色など、色がものすごいと大好評で、24尾仕入れた魚が約2時間で完売した。翌週の第2便では、40尾以上が沖縄から香港へ飛んだ。
そして、きたる7月。「えん」グループ初の沖縄店が、真由美さんの故郷那覇にオープンする。58号沿い、新都心の入口交差点角にある最高の立地だ。元寿司職人として食材のアドバイスをするお父様や、久茂地の南米料理店サルサティーナを経営するお姉さんなど、地元の多くの人たちが真由美さん夫妻を支えている。
さらに、香港、シンガポール、ジャカルタ、上海にいる様々な国籍のスタッフ達が、本場沖縄から多くのことを吸収したいと期待に胸をふくらませる。国際感覚に満ちたインターナショナルな接客が「えん」グループ最大の魅力だ。
「お客様がなにを求めているか考えられる人。仕事で身につけたスキルだけでなく、気持ちであったり、DNAもあるかもしれません。笑顔と活気と思いやりで、店を盛り上げてください。将来的には海外の各店と交流していくなど、活躍のステージは世界へと広がります」
「えん」という名には、
美味しい料理とお酒を囲み集い愉しむ〔宴〕
お客様との出会い、食を通して生まれる人と人との絆に感謝する〔縁〕
円満、幸せ、食の輪を世界に広げていく〔円〕、の意味が込められている。